サスペンション

サスペンションをオーバーホールする方法

作業前に把握すべき症状と工具

リアショックユニットや倒立フロントフォークに感じる「底付き感」やオイル滲みは、ダンパーが発揮すべき減衰力を失っているサインです。そのまま走れば車体はコーナーで姿勢を保持できず、ブレーキング時には余計な沈み込みで制動距離が伸び安全を損ないます。オーバーホールでは分解専用のロッドホルダーやスプリングコンプレッサー、窒素充填ツールなどが必須となります。
代用品で無理にこじ開けるとシャフトに傷を入れてしまいオイルシールが短命化します。外観チェックではロッドの点錆、ブッシュの段付き、リザーバータンク溶接部のピンホールを見逃さないことが重要で、異常を感じた部位は写真を撮っておくと組み立て後の比較確認が容易になります。

純正マニュアルに記載された分解トルクを守るだけでなく、エアブリード行程や油面計測方法が車種ごとに微妙に異なるため、必ず車両型式のセクションを参照して作業計画を立てることがトラブルを減らす第一歩です。

分解と清掃の勘所を押さえる

バネを取り外したシリンダーからオイルを抜く際は、汚染具合を観察して内部摩耗の度合いを推測します。黒く濁り金属粉が多い場合はピストンバンドやバルブシムが摩耗している可能性が高く、アルミ微粉が多い場合はシリンダ内壁が削られている恐れがあります。

ロッドを引き抜く場面ではテフロンバンドを欠損させないよう力を抜きながらまっすぐ引くのがコツで、斜めにこじるとシリンダ口元に傷を作り油膜切れを招きます。各シムは厚みと順序が減衰特性を決める生命線です。作業台に敷いた白紙上に順番を並べ、パーツクリーナーで汚れを落としてからマイクロメーターで厚みを測定し、規定値から外れるものは新品に交換します。清掃が終わったらロッドとシリンダを面取りパッドで軽く磨き、微細なバリを除去してオイルシールの寿命を延ばします。組み立て時には耐熱性に優れたフォークオイルを銘柄ロットを揃えて使用し、油面を0.5mm単位で合わせることで左右の伸縮バランスを確保します。

窒素充填圧はオフロード車で10bar前後、オンロードスポーツで12bar前後が目安ですが、温度上昇で変化するため設定後に水槽テストでエア漏れを確認し、バルブコアにダストキャップを忘れず装着します。

組付け後のセッティングと長持ちの秘訣

完成したサスペンションを車体に装着したら、まずは静止沈下量を体重装備込みで測定します。一般的にフロントで全ストロークの30%、リアで25%を基準にし、数値が大きい場合はプリロードを締め込みスプリングの初期荷重を高めます。

走行テストでは段差を越えたときの一発目の収束回数を意識し、二回以内で収まるよう伸び側減衰を調整します。減衰調整はクリックを一気に動かすのではなく一段ずつ変更し、変化をノートに記録しておくと翌シーズンの再調整が短時間で済みます。オーバーホール直後はシールとブッシュが馴染んでいないため、最初の300kmはハードブレーキやジャンプ走行を避け段差を抜重でいなすようにすると初期摩耗を抑えられます。以降は6,000kmまたは一年ごとのオイル交換をルーティンにすると熱による劣化を最小限に抑えられます。洗車時には高圧ノズルをダストシールに直接当てないよう距離を取り、作業後はエアブローで水分を飛ばしてからシリコンスプレーを薄く吹き付けてゴムの柔軟性を保つとシールリップが割れにくくなります。簡単に読み取れます。

もしシールに180℃の変色跡があれば油膜が空気混入で泡立ち減衰低下を招いている合図なので、油面とガス圧の再点検が必要です。街乗り中心のユーザーでも、梅雨時期と真冬では路面温度差が大きくオイル粘度が変わります。単一レートスプリングを装着している場合、この温度差で沈下量が変化しがちなので、季節の変わり目に一度サグを計測し直し、プリロードリングを半回転刻みで微調整すると良好です。ダストシール上部に汚れを寄せにくいフィルムを巻き付けておくと砂塵の侵入が抑えられ、ロッド表面の傷を予防できます。

走行後はホイールを外さずにロアブラケットを軽く揺すってガタつきを確認し、異音や戻りムラが無いか定期点検を怠らないことで、オーバーホール効果を長く保ち、安全で快適なライディングライフを実現できます。こうした定期的な点検と微調整が、サスペンション性能を維持し、走行フィーリングを安定させるでしょう。