セルが回らないときは電源系を疑う
バッテリ上がりは始動トラブルで最も多く報告されています。気温が低い朝や短距離走行が続く時期は電圧が12.2Vを下回りやすく、セルモーターを回す電流が確保できません。まずキーをONにしてヘッドライトの明るさを確認し、暗く沈むなら充電不足が濃厚です。テスターをお持ちなら端子間電圧を測り、イグニッションOFFで12.6V以上、セルスイッチ押下時でも10Vを下回らないことを目安にしてください。充電は1A以下の定電流で8時間以上かけると極板へのダメージを抑えられます。
電圧が保てない場合は内部劣化が進んでいるため交換が無難です。その際はサイズが同じでもCCA値が高い製品を選ぶと冬季の始動性が向上します。端子の白い粉は硫酸鉛の結晶で導通を妨げます。真鍮ブラシで落としてから薄くグリスを塗り再発を防ぎましょう。スターターリレーが作動しない場合はメインヒューズ切れやリレー内部の焼損を疑います。応急でドライバーの柄で軽く叩くと接点が復活することがありますが、帰宅後は必ず新品に交換しゴムブッシュで防振対策を施してください。またレギュレータが14.8V超で過充電すると液が減り極板が露出します。エンジン3,000rpm時に14.4V以下か確認し、スターターケーブルに焼けがあれば太径品へ交換して回転力を確保しましょう。
セルは回るが始動しないなら燃料と点火をチェック
セルモーターが勢い良く回るのに爆発しないときは、燃料が届かないか火花が飛ばないかのどちらかです。長期保管明けの古いガソリンはタンク底で酸化物を析出させ、キャブレターのジェットを塞ぎます。キャブ車ならフロート室のドレンボルトを開けて劣化燃料を抜き、フューエルコックをPRI位置にして新しいガソリンを数秒流し込みましょう。
FI車の場合はキーONで2秒ほど燃料ポンプが作動音を発するか耳で確認してください。音が無ければリレー系統の断線やキルスイッチの接触不良が疑われます。燃料が正常でもスパークプラグが湿っていれば着火していない証拠です。プラグを外しシリンダヘッドに当ててセルを回し、紫色の火花が規則正しく飛ぶかを観察しましょう。火花が弱い場合はプラグのギャップが広がっているかイグニッションコイルがリークしている恐れがあります。プラグギャップは0.7〜0.8mmに調整し、焼け色が白過ぎたり黒くすすけていれば新品に交換してください。
コイルハーネスの被覆が硬化し割れていると振動で芯線が切れかけ導通が不安定になります。ハンダスリーブで補修すれば高回転域でも安定した点火が得られます。燃料ポンプの流量が1分500mlを下回ると始動不良の原因になります。交換時はレギュレーター圧を合わせないと混合気が濃くなり始動性が悪化します。フィルター詰まりも同様に影響するため、透明タイプに替えて汚れを目視できるようにすると便利です。
復旧後に再発させないための予防整備
一度エンジンが掛かっても原因を放置すると再発は時間の問題です。バッテリは月に1度メンテナンス充電を行い、ターミナルを締め直したらペイントマーカーでズレ検知ラインを引き、緩みを視覚的に把握できるようにします。燃料系は3,000kmごとにインジェクタークリーナーを添加し、キャブ車はシーズンオフに満タン保存して内部の錆を防ぎましょう。
プラグは取扱説明書の交換推奨距離より一歩早い4,000kmで点検交換すると始動性の低下を感じる前に手が打てます。雨天走行が多い車両はスターターリレーとフューエルポンプリレーを防水タイプへアップグレードし、カプラー裏にシリコングリスを充填するとトラブル率が大きく下がります。エンジンアースケーブルの抵抗が0.1Ωを超える場合は新品交換が効果的です。最後に、整備記録をスマホの整備ノートアプリで写真付き保存し、走行距離と気温も併記しておくと季節ごとの傾向が見え、次のトラブルシュートに役立ちます。点検の際はスターターボタンを押した時のセルモーター音を録音しておくと将来の比較材料になります。音が重くなった、回転が不安定になったなどの変化は早期故障のサインです。
停車時はハンドルロックだけでなくギアを1速に入れておく習慣を付ければ斜面での転倒を避けられます。これで旅先の不安がぐっと減るでしょう。